かじかのつぶやき

絵を描き 写真を撮り 本を読み 猫と遊ぶ ときどきお仕事な日々。。。

高校時代

その作品は前から知っていたし、映画化もされて昨年公開された事も知っていました。

が、読みたいと思う事も観たいと思う気持ちも湧いて来なかったので、スルー。

それが今年になって、
急に「ああ、読んどけば&観ておけば 良かった!!」と思うようになり、とりあえず、

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

読んでみました。

作者の朝井さんと言う方は平成生まれで、19歳の時にこの作品ですばる文学新人賞を受賞されたそうですね。
そう考えると、すごい才能だと思います。
読んでいて、自分の中学・高校時代が、おでこの裏側の「特設スクリーン」に浮かび上がってきて、、心の隅っこにある思い出の居場所がヒリヒリするような感覚に陥りました。

(以後、ネタバレあり)
作品は各章を登場人物の名前で区切ったオムニバス形式。
とある田舎町の高校で、バレー部のキャプテンだった桐島君が、突然部活をやめてしまいます。
それによって、バレー部だけじゃなく桐島君の友人やクラスメイト達の日常も少しずつズレ始め、制服に守られていると思っていた自分たちは、本当はとても弱くてもろい心を抱えて生きている事を直視する事になります。

高校生になると、どこでもあると思うのですが、見た目の格差。
「上」のランクに居る子は背も高く、スタイルもいい。
顔だってかっこ良くて可愛くて、髪型だってオシャレだし、制服も少しだけ改造していて、目立つ存在。ピアスもパーマもカラーリングもネイルも、「上」の子の特権。
そういう事が許される存在。
でもそれだけ。
心の奥底には不安を抱えた闇が広がっている事に、気づく者もいれば、全く気づかずにその日を楽しく過ごす事だけが全てで、平気で他人を見下し、傷つける。

「下」のランクに居る子は、一言で言えば、「上」に行けない、行ってはいけないと自他共に思っている。
地味で、なるべく目立ちたくないし、出来れば存在感を消していたい。
彼氏彼女だなんて望むべくもなく、「上」の彼等と自分を比較して小さな心に傷を沢山持っている。

でも、一方で彼等は心に「ひかり」を持っている。
自分の好きな事、やるべき事を何よりも大切にしている。
そして、同じくらいに「友」を大切に想い、誠実さを失わない。

「上」のランクにいる生徒、菊池宏樹は、桐島と仲が良かった野球部員。
が、部活はずっとさぼりがち。
桐島が辞めた事で、自分の居場所が見えなくなってくる・・・

「下」のランクにいる前田涼也は、映画部の部員。
映画甲子園」に作品を出品し、見事特別賞に輝いて学年集会で校長に栄誉を讃えられるものの、マイナー部ゆえ生徒達の冷笑に晒されてしまう。

バレー部のリベロ小泉風助は、キャプテンの桐島がリベロだった為に、必然的に試合で活躍の場が与えられる事になる。
それは喜ぶべきことでもあるのに、風助は喜べない。むしろ心は自己嫌悪がふくれあがり、せっかくの練習試合でもミスが重なってしまう。
いなくなって初めて解った、桐島の大きさ。そして、同じリベロ同士信頼を寄せてくれた桐島の心を知り、喪失感に打ちのめされていく・・・

ブラスバンド部の部長・沢島亜矢は、いつも窓に向かってサックスを吹いていた。
部室から見下ろせるバスケットゴールでは、放課後になると桐島の部活が終わるのをバスケをしながら待っている友人3人がいた。
亜矢はその中の1人、竜汰に恋していた。
が、桐島が部活をやめた事で、3人がバスケをする事はなくなってしまう。
切ない思いをかみしめる亜矢・・・そして、竜汰には彼女がいる事を知る。


とまぁ、こんな感じで、登場人物ごとに物語が綴られています。
他にも数名、クラスメイトが登場します。
桐島君本人は登場しません。各章ごとの登場人物の語りの中だけに出て来ます。

1人の男子生徒が部活を辞めたって事だけで、彼等の日常がざわついていく。
それは彼等がまだ高校2年生という、制服に守られただけの弱い存在である事を浮き彫りにします。

菊池君はその事にいち早く気づくのですが、流される日常で自分を変えていけず、部活にも出られない自分にイライラするのです。

そんな時、彼はクラスメイトで映画部の前田君の瞳の奥に「ひかり」を感じ取ります。
「下」の自分に諦めと劣等感を感じながらも、一生懸命、カメラを回して映画制作に没頭する前田君そのものが、菊池君にとって「ひかり」でした。

そして、菊池君は今の立ち位置から一歩、前に踏みだそうとするのです・・・

高校時代、そういう「格差」はありましたねえ。。
目に見える場所じゃなく、心の中に。そしてそれはいつしか誰もが共有していたランキング。
10代ってのは残酷です。生きている半径がまだ小さいから、他人の大きさ深さを上っ面しか感じ取れない。

フィールドを拡げるには、守ってくれる学校から飛び出して、荒れ野に自分の足で立たなければ見えてこない。
そこまで進むには、制服を着た17歳には難しいでしょうね。
それでも、小さいなりに解ろうとする彼らに共感を覚えました。

これはリアル高校生が読む以上に、とうの昔にそんな季節を終えてしまったオトナ達が読んだ方が堪えるかもしれません(笑)

だって、オトナは自分が思うより子供だったりしますからね(笑)