かじかのつぶやき

絵を描き 写真を撮り 本を読み 猫と遊ぶ ときどきお仕事な日々。。。

真摯な生き方

本を読むのは小さい頃から大好きでした。

とは言え、最近はどうも目に老化が来て(笑)本を読むのが少しおっくうになっています。
でも、書物に触れる事は人間の成長になくてはならない事と思い、都会に出ると必ず書店に立ち寄ってあれこれと本を探します。

ある日、ふとしたきっかけでヴァイオリンの事を少しだけ調べてみました。
私自身はまったく弾けないし、演奏会などにも殆ど行った事がありません。
音楽音痴な私でも、名器・ストラディバリウスがとってもお高い、という事ぐらいは一応解っています(笑)
それを所有する方々は、私たちとは違う恵まれ、選ばれた一部の方々だけなのだとも「知って」いました。

数億円はするという、時空を超えてヴァイオリニストや音楽を愛する全ての人を魅了し続けるこの名器に、ほんの少しだけ興味はありました。

現存する数百丁のストラディバリウスのうちの一丁を、大借金をして購入したのが、このご一家のお嬢さんでした。

千住家の教育白書 (新潮文庫)

千住家の教育白書 (新潮文庫)

この本はそのお母様であり、教育評論家もなさっている文子さんの著作。
息子さんは二人とも日本画と作曲の世界で活躍されておられる著名な芸術家。
その妹である真理子さんは、かつて天才少女と言われたヴァイオリニスト。
お父様は某有名私大の名誉教授であった故・鎮雄氏。

この3兄妹がどのようにして世界に羽ばたくトップアーティストに育ったのかが、母親の視点で描かれています。

私たちはついつい、こうしたご一家を特別な目で見てしまいます。
恵まれた家庭。一流の暮らし。選ばれた人達。
そういうフィルターを一度取っ払って、普通の家庭の普通の暮らしとして捉える事からまず始めます。
楽しげな子育ての風景。幼い兄妹が「おかあちゃま」を加えて4人で走り回った日々。
そこには何年経っても色あせない、鮮やかで優しい時間が流れていました。
そして、子供たちの成長に伴い、激務で家計を支える父。孫達を見守る祖父母の老いと死。
そして、その愛する家族を全力で支え続ける母。
その姿は圧倒的で愛に満ち、ただの一人もおろそかにする事なく助け、敬い、抱きしめて守る。
子育て中の人には是非読んでほしい一冊でした。
そして、成長した愛娘のヴァイオリンも老いて、別れが近づいていました。
そんな時、この一家の元へスイスから飛んできた一丁のヴァイオリンが、嵐を呼び込むのでした。↓

千住家にストラディヴァリウスが来た日 (新潮文庫)

千住家にストラディヴァリウスが来た日 (新潮文庫)


薄い本なので1日で読んでしまいました。
奇跡の連続。まるでストラディバリウスの方から彼女に「弾いてほしい」と願ったかの様な偶然の重なり。
妹を全力で支えようとする兄達の奮闘。そして困難を極めた資金調達。まさかの救いの手。

私は読書で泣く事は滅多にありません。てか、読み物などでは泣かない人。
それがもう、この薄い文庫本のページをめくる度に文字がぼやけて読めないという、初体験をさせて頂きました(笑)

300年もの間、誰にも弾かれることなく、ながい眠りについていた奇跡のヴァイオリン。
こんな事って本当にあるんですね。
母娘の、音楽に対する真摯な気持ちと愛が、300年の眠りから目覚めさせたのではないでしょうか。
何より感動的だったのは、これまでずっと大切に使い続けてきたヴァイオリンが老朽化して「重労働」に耐えられなくなり、もはやこれまで、という状態にまで行ってしまっても、胸にしっかりと抱いて「幻の名器とやらと比べる事など一切しない」と鬼気迫る表情で訴える真理子さん。
そして、ついにストラディバリウスを買う決心をした後、兄の博氏が「役目を終えた」老ヴァイオリンに深々を頭を下げてお礼を言うのです。
ああ、プロフェッショナルとは、まず道具を深く強く愛する事から始まるのだな、と痛感しました。
翻って、私は絵の道具をキチンと愛情深く取り扱っていただろうかと思い、反省する事多々ありました・・・

前述の通り、私は音楽に疎いので、千住真理子さんの奏でるメロディも未だ耳にした事はありませんが、この本を読んで聴いて見たくなりました!

ドルチェ

ドルチェ


目標に向かって進むのに近道はない。楽をしてはいけない。遠回りしてでも苦労しても一途に進まなければならない。
これは千住家の人々が守る父からの教えです。
思えば楽ばかりしていた様な半生を顧みて、もっと苦労しないといけないな、と思う、今日この頃です。